療法士が、医療コミュニケーションのあり方に内省的に気づき、対象者の障害経験から肯定的に学び、障害のある人の変容ばかりでなく、社会の側が障害に合わせて変容するように働きかけられるような、障害の肯定性や多様性のある社会づくりに繋がる「障害の社会モデル」を重視するリハビリテーションが実践可能となる研修プログラムの開発を目指しています。
「障害受容」は(上田,1981)の定義が有名であり、障害を持つ本人が、ショック期や否認期などの段階を経て(段階理論)、障害に対する肯定的価値づけ(価値転換論)がなされ、積極的に生活を行える心理的状況とされている。一方で、リハビリテーションにおける「障害受容」という言葉の使用については批判的検討がなされてきました(南雲,1998)(田島,2009)。具体的には、療法士が、障害から生じる社会的不利益を受け入れさせるように、対象者に対して障害受容を強いる点であった。こうした「障害受容」の使用は、療法士に「障害の個人モデル」の視点が強く残存することを示していると言えます。
我が国における超高齢人口減少社会を背景として、理学療法、作業療法分野では、地域包括ケアシステムに資する質の高い理学療法士及び作業療法士の育成を主眼とし、社会参加の実践能力の強化が急務です。田島の専門である作業療法分野においても、世界的にみると教育の最低基準として、社会的包摂と多様性に関する声明文が出されており(WFOT,2016)、人権や社会的包摂を基盤としたリハビリテーション実践は必須と言えます。
近年広がりを見せる当事者研究:疾病や障害を持つ当事者自身が自身の生き辛さのメカニズムを分析し、自己病名を付ける営みについて、野口(2016)は「医療者−患者関係の「平等化」と「民主化」が独自の形で展開している」と評価しています。当事者研究は、障害のある本人に問題を発見する「障害の個人モデル」の視点に対し、障害のある当事者の障害経験からもっとリハビリテーションが学ぶべきことがあると主張しています(熊谷,2009)。
「障害の社会モデル」の視点は、疾病や障害による社会的不利益の解消のみならず、対象者と療法士の医療コミュニケーションや、その在り方を再考する倫理的観点の醸成に繋がると考えます。
次の3点を考えております。
①対象者が自身の障害に肯定的な価値を見出せる
②対象者が意味を感じる社会参加のための社会変容を目指せる
③療法士は対象者との医療コミュニケーションの平等性を目指せる